インフラストラクチャとは?
本書においては、インフラストラクチャという用語が多用されている。デジタル大辞泉によると、インフラストラクチャとは、「社会的経済基盤と社会的生産基盤とを形成するものの総称。道路・港湾・河川・鉄道・通信情報施設・下水道・学校・病院・公園・公営住宅などが含まれる」となっている。
著者のエドワーズによると、インフラストラクチャとは「ある共同体内で高い信頼性を持ち、標準化されて広く利用できる基礎的なシステムとサービス」と定義している。このサービスがもたらす広く利用できる信頼性のある情報を含む、といってよいかもしれない。インフラストラクチャは、私たちにとって木々、日光、土などと同じように普通で目立たない、同化した背景として備わっている。
現代文明は基本的に数多くのインフラストラクチャに依存しており、彼はその例として、鉄道や電力網、高速道路、電話システムを挙げている。さらに上下水道やガス、ゴミの収集・処理なども含まれるだろう。そしてインフラストラクチャが失われたときに、それらにいかに依存していたかに気づく。インフラストラクチャは、普段はニュースに上ることは少ないが、災害などで利用できなくなると大きくクローズアップされる。
著者のエドワーズによれば、このようなインフラストラクチャは、多くの関連する目的に対してあたかも単一の統合システムであるかのように振る舞う「複数のネットワーク」からなっている。これらのネットワークの発展には、技術だけでなく、人間を介した法律、標準化、手続きなどの社会的制度も整える必要性がある。そのため、多くのインフラストラクチャは、「社会技術システム」となる*。
インフラストラクチャの概念図。
ここでは、システムやネットワークから成っており利用者側から見て幅広い情報やサービスをもたらすものを、インフラストラクチャとしている。技術的なものだけでなく、幅広い制度や仕組みなどまで、概念が拡張されている。
インフラストラクチャの発展に、社会制度も含めている観点は重要である。例えば今話題となっているGAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)は、IT技術を駆使したサービスインフラストラクチャといえるだろうが、技術の確立だけでなく、変動する社会へ対応するための制度の確立にも現在迫られている。
著者は、新たな知識を生み出すメカニズムは、通信網や輸送網やエネルギー網などのほかのインフラストラクチャの概念と類似していると述べている。そのため、「知識の対象を共同体が歴史的に生み出したものと見なすと、このインフラストラクチャの概念を簡単に拡張できる」として、インフラストラクチャの概念を、知識を生み出すメカニズムへと拡張している。そして、新たな気候知識を生み出しているものを、インフラストラクチャの概念を適用して、「気候の知識インフラストラクチャ」として説明している。
そのため、この本を一言でいうと、グローバルな知識インフラストラクチャという視点から見た、気候科学の歴史的な解説となっている。
*著者によると、技術史家と社会学者は、主要なインフラストラクチャを「大規模技術システム(LTS)」として捉えている。このシステムの構築者は、個々の装置類を結合したセットを作成または発展させる。その典型的な例はエジソンである。エジソンは電球だけでなく、各家庭でそれを使えるように、直流発電機と電線網と合わせてシステムとして提供した。
このようなシステムの構築に必要なものは、技術的な創意工夫だけではない。システムとするための資本確保、特許や電柱設置の用地などの法的権利の整理、安全性などの規制、電圧の標準化など、社会制度の確立に対する革新と努力も必要となる。技術史家のトーマス・ヒューズは、エジソンは直流発電機と電線網と電球からなる「照明システム」を考案して提供したと述べている。その結果、それらは広く普及して照明のためのインフラストラクチャとなった。
そして、ゲートウェイとは異質な分野のものを同じ土俵で扱えるように変換する装置である。電線網でいうと、例えば海外でソケットの形状が違う場合に、自国の電化製品で使えるようにするアダプタは、ゲートウェイである。また近年だと、商用電源では使えないUSB機器に、電源を供給するアダプタもゲートウェイといえる。国内での通信網を海外でも使えるようにするローミングも制度的なゲートウェイといえる。